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山嵜 勉 先生




人間の形態と機能と理学療法 ~形態構築アプローチ~

元 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院
                         リハビリテーション部技師長
                               山嵜 勉 先生

~理学療法士の業務の専門性~







 「人間みたことある?」先生は変な質問から講義は始まった。
頭のなかのイメージでとらえているのではないか。当たり前すぎて実際は見過ごしているのではないか。
おおよその人が自然立位では正中位ではない。頭部や骨盤などそれぞれのパーツごとに偏位しているとのことだ。要するに左右対称ではなく非対称であるのだ。非対称であるがゆえに問題点が生じてくる。
 今のままではPTの存在理由・価値があるのだろうか・・・と先生は私たちに投げかけてきた。専門職といわれる理学療法士。何の専門職なのであろう。関節可動域訓練、筋力強化訓練、歩行訓練、物理療法などアプローチは様々であるが、理学療法士しかできない内容なのだろうか。
看護師や介護職の方たちも私たちセラピストと変わらないようなことをしている施設もあるかもしれない。それならばセラピストが必要かどうか疑問である。よく患者さんに対して「頑張ってください!」と耳にすることもあるが、先生は言う。患者に努力をさせるべきではない。セラピストが努力するべきであると。





~体幹形態と四肢運動機能の相関~




 体幹のポイントを圧迫もしくは牽引するだけで、関節可動域が改善する。そんな魔法のような手技を先生は疲労してくれた。ほんの10秒ほど胸郭のあるポイントにアプローチをおこない可動域が改善したとき、会場にどよめきが起きた。次々と被検者の可動域が改善される。なぜそうなるのか・・・。「根拠はよくわからないが、結果は出ている。この結果を私は示した。根拠を知りたいのであれば、若い君たちがそれを示してくれ。」「私の手技や理論はあくまでも一つの事実として受け止めて、それが他者への刺激になればよいと思っている。」と先生は詳しくは語らなかった。










~動作の構築~


 被験者の足底を観察しただけでダンボールをはさみで切って足底パッドを作成した。所要時間は1分にもみたない。その足底パッドまたはインソールによって下肢機能の補助がおこなわれる。役割として「下肢の支持機能の補助(構造的サポート)」「下肢の推進機能の補助(機能的なサポート)」「慣性の制御機能の確保」「アーチ機能構築」を挙げられた。























~講義を終えて

 先生の手技はまさに「神の手」であった。だが、そのような呼ばれ方はあまり好まれないらしい。これは私のやり方であって、自分らしく、自分の能力に合わせて自分の理学療法を研鑽することが理学療法技術を磨くということと述べられる。確かに自分らしい理学療法にしたいが、何をおこなってよいのか疑問に思うことは多々あると思う。そうなるとジャーナルや教科書に頼ることが普通である。しかし「ジャーナルや教科書に載っていることが全てではない。それはあくまでも参考だ!」その言葉を聞いて、自分らしい理学療法とは何か・・・と考えさせられた講義であった。最後に「他人が言うことをあまり信じてはダメだよ(笑)」と言い残されていった。








湯田 健二 先生


「人工股関節全置換術後の理学療法展開」



海老名総合病院
理学療法士 湯田 健二 先生




 理学療法士は、人間(ヒト)として直立二足歩行が獲得できる機能の再構築いわゆる歩容改善という大きなテーマをもち、術後の新たな人生を視野に入れて理学療法を展開していく必要がある。しかしながら、術直後早期からむやみに歩行を促す必要があるのか?という疑問を持ち続け、患者さんの身体が何を訴えているのかを確実に診ていくことが歩容改善に繋がるということに気づく。


~変形性股関節症の身体的特徴~



1.術後臥位にける弊害
臥位姿勢の改善が跛行改善の糸口となる。背臥位になる過程でどのような代償動作が起きているかを考え、その中で痛みの見極めをしていく必要がある。
代償動作による悪循環は痛みを増強させる。これには筋・筋膜連結のあるスパイラルラインをたどることで一つのヒントが見つかる。手術侵襲により股関節の伸展を避け、その代償動作により侵襲部位の痛みが増強する悪循環が始まる。その悪循環の中、体幹は反体側へ偏位することになる。これが跛行の一要因と考える。

2.歩行時の体幹偏位
 変形性股関節症の跛行は様々な視点より表現されるが、臨床的にはデュシェンヌ+トレンデレンブルグ跛行とデュシェンヌ+逆トレンデレンブルグ跛行が多くみられる。いずれのパターンも変股側下肢の支持期に体幹は反体側へ偏位する。この偏位が術後臥位でみられる体幹偏位と類似する。














3.臥位におけるアプローチ
① 頸部伸筋群(浅層・深層)の過剰収縮を抑制
② 足部からのアプローチ
③ 外旋筋の活性化
④ 股関節中心のイメージ化
⑤ 頸部から体幹の連結
⑥ 体幹偏位と股関節両側性活動(股関節伸展側へ体幹偏位を誘導する)を挙げられた。
術直後の患者さんは、歩容様を改善してほしいというよりも、楽に眠りたいとの訴えが多い。臥位の改善が安楽な姿勢の獲得であることと同時に立位姿勢及び跛行の改善へ繋がるということを考えなくてはならない。



~脊柱起立筋vs多裂筋・腰方形筋・腸腰筋~

 変形性股関節症の患者さんの特徴として、脊柱起立筋が過剰に働き、多裂筋・腰方形筋・腸腰筋の収縮が上手く働いていないことが多い。そこで、運動軸の評価を行い脊柱起立筋が過剰に収縮していることを確認できたら、触診をしながら脊柱起立筋の収縮を抑制し、多裂筋・腰方形筋・腸腰筋の収縮を促通する。わずかな動きの中で新しい運動感覚を入力するため、神経を研ぎ澄ましアプローチする必要がある。


~座位



4.座位における弊害
術後の座位姿勢は痛み・可動域制限・怖さなどの要因で術側への荷重を避けている。つまり、術側の骨盤は挙上し、股関節は内旋した状態であるため、立ち上がろうとすると前方への重心移動は非術側優位になる。よって、上半身重心点と術側股関節中心レバーアームが大きくなるため、股関節伸展モーメントは発揮させづらくなり、腰背部で体幹の伸展を代償するため腰背部の筋緊張はますます増強していく。

5.座位から立ち上がりにおけるアプローチ
①股関節荷重の促し⇒座圧中心の改善
②殿部離床時の関節モーメント
③股関節運動のイメージ化
④身体重心移動のイメージ化
⑤最終到着点(立位)の保障




 寛骨臼に対し骨頭をいかに求心位に働かせられるかが重要になる。術側に荷重をのせ、股関節運動を学習させることがポイントとなる。その結果、立位姿勢において下肢軸の上に体幹を移動することができる。立位姿勢が保障されると、同時に歩ける状態を作りだすのだ。














~講義を終えて~

 今回の講義は人工股関節全置換術後の理学療法の展開であり、術直後、痛みがあるにも関わらず立位・歩行練習をむやみに促す必要があるのかを考えさせられた。患者さんの訴えから痛みの原及を行い、アプローチ後の身体の変化を患者さんと共有しながら、人生の門出を構築していくことが私達の役目であり使命であるのではないか。

(文責 田上綾香)








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