「歩行のバイオメカニクス」を終えて

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石井 慎一郎 先生


「歩行のバイオメカニクス 治療アプローチ

神奈川県立保健福祉大学 准教授
石井 慎一郎 先生

~人間の機能解剖は、歩行を実現する為に構成されているといっても過言ではない~

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 我々は歩く為には3つの回転軸が必要であり、機能しなくなると歩けなくなる。
患者さんの歩行を分析する場合、1番最初に注目するところは、3つのロッカーファンクションがしっかり機能しているかを見る事が重要となる。なぜ三つの回転軸が必要かを考えていく。

~Rocker Function
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※ヒールロッカー
 3つのロッカーの中で、ヒールロッカーのみ仲間はずれである。その意味を考える事がヒールロッカーの機能を考える上で重要となる。ヒールロッカーは関節ではないところに回転軸があり、踵の形状を使って回転している。関節運動ではないため、筋力を使って、速さや軌道の制御ができない。ヒールロッカーが起きる時期は、重心が低くなる時期であり、上から2センチ自由落下となる。その衝撃は体重の1.2~1.5倍の加重となる。この時期に、自分の意思ではない転がり方となりうる回転運動が起こることは、ある意味リスクが高い制御である。
「なぜこのような時期にこのような回転運動が行われるのか?」
 踵接地時期、体重の1.2~1.5倍の衝撃が継続する状況であると、関節の破壊や脳震盪を起こす。そうならないために、身体の関節全て衝撃を吸収するように働くことで、体重の1.2倍まで衝撃吸収でき得る。また、この時期に活動している筋は全部遠心性収縮し、衝撃を吸収しクッションの役割をしている。(例えばジャンプの着地)衝撃吸収しながら、前に進むために、踵の形状を利用し回転運動をする。

下肢の衝撃吸収メカニズムは、足関節の衝撃吸収メカニズムが作動するから、膝関節の吸収メカニズムが連動し作動する!


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※アンクルロッカー
 ミッドスタンス(直立位)を境に前半と後半でエネルギーの使い方が変わる。ミッドスタンス前は、重心を高い位置へ持ち上げる為にアクセルの役割をするpositive power、ミッドスタンス後は、重力が作り出す身体を前に回転させる動きであり、ブレーキの役割となるNegative powerである。アンクルロッカーの前半は、重心を低い位置から高い位置へ持ち上げている。重心持ち上げられる事で、その後勢いがつき、前方に回転運動を起こすことが出来る。重心の位置を高くする為には、エネルギーが必要となり、膝関節の伸展運動が必要となる。それには、大腿四頭筋が働くのではなく、ひらめ筋と大殿筋の協調した働きによって、下腿に対して、大腿部を前方回転させ、膝関節は伸展位となる。後半は、そのままの速度で回転すると、重力加速により速くならないよう、ひらめ筋・腸腰筋の遠心性収縮により、速くなる速度にブレーキをかけている。同じ一連の動きの中で、屈筋と伸筋の拮抗した筋の動きの切り替わりにより制御された動きとなる。これら重心の上下運動はエネルギー効率を良くするために行われている。

※フォアフットロッカー
 さらに回転軸が前方へ移動する。MP関節へ移動するのはなぜか?
滞空時間を保ち、歩幅を稼ぐ為に反対の足が振り出されるようにする。股関節を伸展させながら滞空時間を長くするためには、足関節を底屈させ、重心移動が上方へ軌道修正させ余裕を持って踵接地が可能となる。遊脚側が踵接地する為の時間を確保でき、衝撃吸収が可能となる。この時足底屈筋、腓腹筋の働きは非常に重要。歩行周期の中で、最大筋力の割合を大きく占めるのは腓腹筋であり、大きな筋収縮が必要となる。だから、腓腹筋のトレーニングは大切である。





~zero MOMENT Point 制御~
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 重心が支持基底面内入り続け、安定していて、フェーズ毎にとらえると止まることが可能な歩行を『静歩行』といい、患者の歩行形態である。
健常な人の場合、重心が支持基底面内に存在している時間が短く、ほとんどが支持基底面の外にある。フェーズでとらえると、不安定であり、歩行においては加速がついているからバランスをとっている。これを『動歩行』という。両方を比較すると、静歩行は安定している分ひっくり返るリスクは少ないが、不整地であるとひっくり返るリスクは高まる。動歩行は不安定な中、バランスをとっているので、不整地にも対応しやすい。また、歩行中の加速度は三半規管、前庭系により感知され、両側股関節の動きをコントロールされている。それにより、安定化させる為に、重心加速度と方向、移動を可能とする床反力作用点の位置を決定している。これを、Zero Momento Point 制御という。


≪トレーニングで重要となるのは2点≫

    1)足底に刺激を与えて、作用点へずらす。

    2)加速度の抽出(感知)と股関節機能のリンク
     動きながら向きを変える、足踏みしながらサイドステップ












重枝先生 ~THA術後経過の観測について~
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THA術後の歩行分析を継続的観測
3ヶ月、6ヵ月後、12ヵ月後に観測
結果
6ヵ月後、12ヵ月経過により歩行速度が向上
股関節可動性、筋力、歩行の対称性、歩行速度、ステップ長は順調に改善している。
しかし、股関節機能に着目してみると、立脚後期、股関節伸展角度、屈曲モーメントの減少、骨盤前傾が増加し代償していた。

なぜか、
仮説①術式の問題
 最大伸展位での骨頭の被覆率が低い場合や、インピンジメントの有無の可能性?
 この場合、悪戯に股関節伸展を促すことは逆効果である。
仮説②パフォーマンスの問題
 腸腰筋の遠心性収縮がうまく発揮できていない?
 この要因であればPTが係る事が有効。

研究・分析の結果から仮設①は否定された。
 歩行速度増加、ステップ長の増加、対称性の向上、動的安定性に保証された股関節伸展運動が必要。より高度な動作課題に適応させていくために、立脚後期に股関節屈曲筋の遠心性収縮が難しく、骨盤前傾で代償している。立脚後期の股関節伸展の訓練時には、股関節屈曲筋の遠心性収縮を考慮した運動が必要である。




~講義を終えて

何に対して、何を動かしている?」
 身体部位の骨盤帯、大腿部、下腿部、足部、重心、それらがどのように機能していて、お互いに作用しているかを細かく解説されていた。その為、実動作へ反映されるエクササイズを解説され、少し実技も体験したが、石井先生が行う抵抗のかけ方も、徒手であったにもかかわらず、荷重下で動く感覚そのものだった。また、時間も限られて新ネタの講義だから、話すことにいっぱい、と言いながらも、いつものジョークを交えた講義内容であり、受講者が退屈しないように心配りをされていた石井先生の細やかさが伺えました。

(文責 村上 将司)

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