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大槻 利夫先生





「脳卒中患者における歩行の治療」

上伊那生協病院  
大槻 利夫 先生


~中枢神経障害に対する理学療法~






 システムセオリーをベースにした課題指向型アプローチが主流です。運動は多システム 神間の相互作用として出現し、環境によって制約されます。よって、環境が変化した場合 への適応は、機能回復の重要な役割です。また、1つの正常な運動パターンを繰り返し練 習するよりも、なぜその動作が出来ないのか原因の追求を行うべきです。

ヒトの歩行と脳卒中患者の歩行 二足歩行の獲得には抗重力筋の発達と姿勢制御が不可欠で、まずバランスのとれた立位 が必要です。ヒトは他の動物と比較し、高い重心、狭いベース、それに一脚支持がありま す。高い重心(体幹)や下肢(および一脚支持)のコントロールはいづれも無意識下で行 われています。歩行の神経機構として、(1)歩行誘発野(MLR)(2)脊髄(CPG) (3)基底核(4)大脳皮質(5)辺縁系・視床下部(6)小脳という流れがあります。 脳卒中患者の歩行は大多数の患者にとってが自身の問題を気づかせられる活動であり、最 も際立った目標のひとつです。脳卒中患者の歩行獲得のために、非麻痺側下肢を1歩踏み 出すことを可能にすることが治療の目的です。それには、二本足で立てることが前提で、 身体制御が必要であり、この機能の回復には上肢活動が重要です。



~予測的(先行随伴性)姿勢制御~




 すべての運動において姿勢制御が随伴し、先行する姿勢制御がない限り、意図する運動 を実行できません。つまり、随意運動の開始以前に、その意図は姿勢制御に反映されま す。姿勢筋の活動パターンは2つの部分からなり、最初は準備期であり、姿勢筋は主動筋 の活動に先立ち活動を開始し、運動により生じる不安定性に備えます。第2の部分は補償 期であり、姿勢筋は主動筋に続きフィードバック形式で再活動し、身体を安定させます。















~中枢神経系の感覚システム~




 脳卒中患者は、これまで以上にフィードバック制御、すなわち諸感覚を取り込み、処 理・統合して運動を産出するようになります。治療における感覚入力とは、患者さんに感 覚情報を与えるものではなく、患者さんの脳(中枢神経系)に感覚情報を探しにきてもら うことです。

















~運動学習 ~





脳卒中は身体の身体運動の障害を引き起こすので、脳卒中のリハビリテーションは運動 学習です。脳卒中による中枢神経障害の回復は新しい神経回路網が作られることによるま す。つまり、機能回復は特定の課題や環境に対する感覚・知覚系と運動系の再組織化を伴 います。したがって、治療介入は再学習ではなく、新たな学習です。

高草木 薫先生




「運動制御の神経基盤



旭川医科大学 医学部  
高草木 薫 先生



~ 運動制御の基本:姿勢と運動の制御 ~





 運動には2つの側面があり、自動的側面(定常的な歩行のリズム、手足の動き、姿勢制 御)と随意的側面(運動の開始や停止、障害物の回避)があります。パーキンソン病患者 はこの両側面が障害さており、基底核疾患を理解することは、運動制御の仕組みを理解す ることにつながると言えます。姿勢と運動は密接に関係しており、姿勢は運動の意図や情 動を反映します。姿勢制御については“タスクを自動的に遂行するための計画とプログラ ムにより実現される予測的過程”という説があります。つまり、運動や行動の実現は「姿 勢制御」が担っていると言えます。また、大脳基底核については“学習によって獲得され た一連の運動機能を自動的に実行する上で重要な役割を担う”と言われています。つま り、姿勢制御に関与する神経機構が障害されると言えます。姿勢制御は精緻運動に先行す るが、基底核疾患ではこれが障害されます。 運動までの流れとして、 (1)認知、(2)行動の計画、(3)運動のプログラム、 (4)運動の実行という流れがあります。 大脳皮質・基底核・小脳のループにより行動の 計画と運動のプログラムを作成されます。ここでいう運動プログラムというのは、姿勢制 御を含めた上での精緻運動ということです。運動の実行には、脳幹~脊髄下行路(内側運 動制御系)という姿勢(筋緊張・歩行)に関与する部分と、皮質脊髄路(外側運動制御 系)という精緻運動に関与する部分からなります。小脳は感覚フィードバックを用いて運 動学習(正確さ)を調節します。基底核はドーパミンの作用による強化学習(適切さ)を 獲得します。

~感覚情報と脳の身体地図~




 運動プログラムの生成には、感覚情報に基づく内的姿勢モデル(身体図式)が必要で す。身体図式(Body Schema)は感覚に基づいて形成された内的姿勢モデルのことで、 身体地図は(Body Image)は自分には自分がどのように見えているか?という主観のこ とです。Body Schemaと Body Imageの間の葛藤が様々な疾患の背景に存在します。

















~中枢神経系と可塑性~

 可塑性には4つのパターンがあり、1.Map expansion(頻繁に使う機能に関する脳 の領域は拡大する。)、2.Sensory reassignment(感覚が遮断されると、その領域は 新たな別の感覚入力を受けるようになる。)、3.Compensatory masquerade(代償 作用、或いは、代替戦略により機能を補う。)、4.Mirror region takeover(一側の 大脳半球の機能が喪失すると、体側半球の対応する領域が、喪失した脳機能を獲得するこ と。)を理解することが重要です。 リハビリにはその可塑性を用いますが、神経可塑性 を発起させる治療の代表例としてCI-therapyがあります。しかし、その可塑性が間違って しまうと異常な運動や行動パターンの生成につながってしまう可能性があります。






~大脳基底核と運動機能~






 最近の研究では、大脳基底核からの出力は、黒質網様部を介して、歩行誘発野や筋緊張 抑制野に働くことによって、歩行や筋緊張を調節しているということが分かってきまし た。例えばパーキンソン病の患者では、基底核の出力が増加すると言われており、屈筋・ 伸筋の共収縮(筋固縮)が引き起こされ、関節が動きにくくなることによって歩行障害が 誘発されます。また、 筋緊張促通系が亢進し筋緊張抑制系が抑制された結果、筋緊張亢 進につながります。







加藤 浩 先生




「多関節運動連鎖の視点からとらえた股関節疾患患者の歩行特性」


九州看護福祉大学
加藤 浩 先生



~新しい視点で下肢運動器疾患を捉え直す~



 局所でとらえるか?全身でとらえるか?特に、下肢運動器においては多角的運動連鎖(multi linkage system)により合理的に身体機能が維持されている。それ故に、局所でとらえる目と全身のシステム機能障害としてとらえる2つの目が要求される。
診る視点を変えれば新たな障害構造が見えてくるもので、従来のROMやMMTといった関節機能再建の視点から、日常生活に直結した運動機能再建の視点でみる目を持つことが必要である。




~運動連鎖とは?~



 運動連鎖といっても、筋の収縮連鎖・運動連鎖・力の連鎖の3つを理解しておく必要がある。
 筋の収縮連鎖は筋を弛緩できることが重要であり、例えば目隠し歩行で真っすぐ歩ける対象者に対して、右奥歯でガムを噛みしめながら目隠し歩行をしたときに右方向へと歩いてしまう。左側でも同様の現象が起きる。臨床上でも、杖を握りしめて使っている人はうまく歩けない現象は、筋の収縮連鎖がうまく行えていないといえるでしょう。
 筋の収縮連鎖には、2関節筋に緊張が連鎖しやすいという特徴がある。特に股関節疾患の患者さんは大腿筋膜張筋の痛みを訴えることが多い。それは、一旦筋緊張が高くなってしまうと力を抜くことができないという現象が生じているからである。力を抜くことを教えてあげることも理学療法の重要な役割である。





~多関節運動連鎖の視点から捉えた歩行特性~







・立脚期における母指の重要性
 立脚初期において、踵接地から足部は回内方向へと接地していく。約700Nの衝撃を吸収するという課題において、なぜ足部は回内する必要があるのか?それは母指を接地する必要があるからです。その他の4指と比較しても、2倍ぐらい母指に体重がかかってくることからも、母指を接地する重要性が理解できます。

・Triple extension
 立脚期において、股関節・膝関節・足関節すべてが伸展位にあることで棒状のものになっていることが必要になる。床反力の前方成分が増えないことには、歩行における前方への加速度は増加しない。ということは、歩行周期における40~50%において、いかに前方への床反力を作り出せているかが歩行速度のポイントとなる。その時期に、股関節・膝関節の伸筋である大殿筋や大腿四頭筋が使われているわけではなく、腓腹筋が主に使われている。腓腹筋の遠心性から求心性へと変換される腱の直列弾性要素が重要となる。
そもそも歩行において、筋出力は極力省エネで使うように構成されている。その中で、最大出力の50%を超えるものは腓腹筋のみである。









~講義を終えて~



3次元動作解析装置や筋電図を用いたデータが盛りだくさんで、今まで小難しいという印象があったようなグラフなども様々な例えや動画も加えて解説して頂くことで、非常にわかりやすく感じました。スライドの見せ方にもこだわりがあり、メリハリのある講義には参加者を引き込む力がありました。




石井 慎一郎 先生  




「歩行動作における姿勢制御のバイオメカニクス」





神奈川県立保健福祉大学
石井 慎一郎 先生



~姿勢制御の基礎力学~



 重心加速度を決定する力学的因子として外力が挙げられる。外力としての重力と反力を制御して重心を移動することができる。地球上で生活をする以上、ニュートンの法則に従って動作を行うため、3原則である慣性の法則、運動方程式、作用・反作用の法則を抜きに人の動作を考えることはできない。
 例えば、立位の状態から股関節外転筋を用いてサイドステップで横に移動するという課題があったとしたときに、外転筋はただ外転をするだけではなく、足部の状態をモニタリングしてどれぐらいの強さでどの方向に収縮するかを決定づけていく作業が必要である。側臥位で横に足を広げるような筋力訓練を実施しても、目的は自分の足の重さを持ち上げることになるので、重心を移動させる機能を改善するということにはつながらない。


~静歩行と動歩行~





静歩行とは重心位置を安定に保ち、バランスをとりながら歩く歩行様式であり、支持基底面内に常に重心が存在するものである。静歩行は言い換えればいつでもストップすることができる状態で、ダイナミックな動きの中では逆にバランスが良いとは言えない状態となる。
 動歩行とは重心の移動を予測して、動的なバランスをとりながら歩く歩行様式であり、支持基底面に重心が存在するとは限らない。静歩行と違ってすぐにストップできるわけではないが、様々な環境に対応できて歩行速度が速い歩行を可能にする。正常歩行は動歩行であり、バリエーション豊富な方がダイナミックな動きではバランスが良好となるため、目指すべき歩行は動歩行となる。






















~転倒しないために必要な姿勢制御~





① 床反力制御…足底で踏ん張る
② 目標ZMP(ゼロモーメントポイント)制御…転倒力を制御する
③ 着地位置制御…理想的な位置に着地する










 これら3つの制御ができることで、ダイナミックな動きの中でも高い安定性を得ることができ、転倒をしないためには必要不可欠なものとなる。
床反力制御で制御しきれないほどの外力が加わったときに、目標ZMP制御を用いてさらにその方向へと重心を加速させることで上半身への復元力を加える。そのことで転倒することを防いでいるが、目標ZMP制御を用いた時には正常な姿勢制御とは異なる重心の移動が生じるため、着地位置を変更する必要がある。そこで着地位置制御が必要となり、急な外乱に対して歩幅を変更することを可能とする。





























~予測姿勢制御~




 予測姿勢制御とは次の動きをリアルタイムに予測して、あらかじめ運動制御を行っているもので、樋口先生の研究では2歩前で障害物をまたぐ動作などはプログラミングされているとのこと。
将来挙動を予測して目標歩行パターンを変更する。そこで誤差が生じた場合に歩行安定化制御を行っていくことでバリエーション豊富な歩行動作を可能にしている。






~講義を終えて~

 今回、すべてのスライドが新ネタということで、いつもより熱く語っているように感じる石井先生の講義は非常に斬新で、「3+1の制御ができるようにしなさい」と新しい概念が学べたように感じます。当たり前に行っている動作に対して力学的な解釈をもって説明することは簡単なようで非常に難しいことだと感じます。かなり講義の数をこなしている中で、石井先生は常にブラッシュアップしながら内容を進化させていく。この姿勢は、日々変化する医療の現場で働くセラピストとして見習うべきだと感じました。











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