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石井 慎一郎 先生





『歩行の神経制御とバイオメカニクス』

神奈川県立保健福祉大学  
石井 慎一郎 先生


<歩行運動の制御系>







直立二足歩行の運動制御に求められる要素
・自律的に運動が遂行されること
・エネルギー効率が良いこと
・骨格系の耐久性を保証すること

歩行は静歩行(高齢者)・動歩行(若年者)の2パターンに分類される。
特徴
静歩行:どのタイミングでも停止することが可能
動歩行:停止するために2歩必要(自転車)

 自律二足歩行を行なうヒトとASIMO(ロボット)はDynamic Balance Controlは同じで あるが、推進系に大きな違いがある。 ヒトは位置エネルギーと運動エネルギーを相互に変換するという重力を利用した推進系 を採用しており、Central Pattern Generator(以下CPG)で生成されるリズムをもとに 歩行パターンを生成する。その歩行パターン生成のために
・皮質脊髄路からの運動出力
・大脳皮質~基底核~小脳ループによる運動プログラム生成
・皮質脳幹投射による姿勢制御
・脳幹~脊髄による歩行と筋緊張制御
が必要となってくる。





<歩行障害に対する理学療法>





 歩行パターン生成には力学条件が必要ではあるが、神経系も大きな役割がある。
前頭前野、大脳皮質→運動の開始・停止、方向の情報 小脳→運動の速度をコード 脳幹→バランス、筋の緊張と速度(運動パターン) 皮質脊髄路→巧緻運動系 MLR-脊髄CPG→位相制御系 PPN-脊髄運動ニューロン→筋緊張制御系 :床反力をフィードバックすることで筋緊張を決定 動歩行がCPGを賦活させる












ヒトの二足歩行の推進系と下肢の機能 遊脚期は運動エネルギー、立脚期は位置エネルギーを利用する。 筋活動をみると、立脚期はIC~Mstにかけて伸展筋活動、それ以降は屈曲筋活動。
 遊脚期はその逆で屈曲筋活動から伸展筋活動に切り替わる。 IC時の膝関節屈曲の役割としてはHeel Rockerによる衝撃吸収メカニズムである。 立脚中期の膝関節伸展の役割としては大腿四頭筋の収縮により重心位置を上昇させ位 置エネルギー生成している。またヒラメ筋の遠心性収縮、大殿筋の求心性収縮による 協調作用でも重心上昇を担っている。 このことから、起立動作時に手すりなどを握らせてそれを引きつけ、基底面内に重心 をしっかりおさめるように体幹を屈曲させる屈曲パターンを利用するのではなく、瞬 間的に前方へ重心を移動させ加速をつけ慣性を利用した伸展パターンで動作を行なう 方が良い。そのためには正しいリーチ動作を学習させる必要がある。






















<講義を終えて>




 先生の専門分野の力学から考える歩行に神経系がMIXされた今までにない内容であり、 もちろんいつものようにレクチャーもあり、実際の動作やハンドリングを見て学べるとい う参加者のニーズに応える内容であったのではないだろうか。

森岡 周 先生




『姿勢・歩行制御の神経機構と運動学習戦略』

畿央大学大学院健康科学研究科

森岡 周 先生

〈行動発現の神経機構〉








Dr.シューの楽しく脳を考える 1
ロボジーが吉高と握手をするシーンスライドにて
吉高由里子 “芸能人やん、握手したい”
行動の欲求に応じて、手を差し伸べるための姿勢 制御が働く。
ロボットには、行動の欲求は起きないので相手が誰であろうと一定の動きしかしない。

 姿勢制御の発達と神経機構
森岡先生が長年研究された年齢と片足立ち保持時間の三次曲線のグラフをもとに説 明。
・4~6歳までは視覚優位だったものが、体性感覚優位に変化する。
・高齢者になっても、視覚優位の姿勢制御に変化してくる。
・反応の応答が速い、体性感覚の方が姿勢制御には優先される。
・視覚は反応が遅い。











Dr.シューの楽しく脳を考える 2
目玉オヤジの中には脳があった!
視覚に必要な目玉に脳がある!
鬼太郎の左目の中には目玉オヤジのベッドがあった!


















Dr.シューの楽しく脳を考える 3
フラミンゴのバランス。

森岡先生が20代の頃に、毎週動物園に通った!
猿の行動を見ながら「何をこいつら考えて行動しとんや?」
フラミンゴの一本足立ちを見ながら「筋力が重要だと思っていた若い頃に、フラミンゴは なんで寝てても立てるんや?」

 環境に適応させながら、小脳の働きが強化され、学習によって適応されるようになる。 ある環境によって、学習を繰り返し適応させていく力を持っている。





〈随意運動に伴う予測制御的姿勢に関係 〉




 ヒトにおける予測的姿勢制御 上腕二頭筋の収縮においても、網様体脊髄路によって、下肢の姿勢制御が先行して働く。
精緻な行為を行なうために、姿勢制御を行なう。 バランスを安定させるためではなく、遠位の運動を行なえるように姿勢を制御する
歩行の神経機構 環境が相互作用し、歩行につながっている パターン化された運動をコーディネートする

セントラルパターンジェネレーター(CPG) 歩行のパターンを形成するのに関与する環境の変化があっても、パターンは変化せず、 これをCPGで行なっているのではないかという説がある。 脳幹が興奮し、網様体脊髄路を介しCPGの興奮を促し、歩行運動を誘発する。

 歩行の準備時の活動
歩く前には皮質の活動がみられる。
運動開始時のシミュレーションが必要となるため















 脳卒中の歩行機能回復と脳内機構
学習さていた歩行機構が、損傷をうけ再び学習が繰り返され、脳卒中になると、意識の下で制御され、
A 皮質下の梗塞では歩行機能改善に伴い感覚運動野の活動が対称的になる。
B 中大脳動脈領域の広範囲の梗塞では、歩行機能改善に伴い運動前野の活動が増加する
C 自動的な歩行が可能になると感覚運動野の活動が低下する

 外乱負荷に対するadaptation障害 小脳重度障害患者では、急激な負荷に対しては適応困難。しかし段階的な負荷に対して は学習し適応可能となる。フィードバック情報を徐々に学習し、姿勢制御などでフィー ドフォワードする。














〈講義を終えて〉




 ロボットや目玉オヤジなど・・・パロディの中にも脳科学を考える。 さすが脳科学研究者なのであろうか、あらゆるものやシーンに脳科学を連携させる。 内容は深く難しいことなのだが「楽しく」考えることができれば消化しやすくなる。
そう先生が教えてくださった貴重な時間であった。





河島 則天 先生




『歩行のしくみ -歩行運動を支える神経基盤-』

国立障害者リハビリテーションセンター研究所
運動機能系障害研究部 神経筋機能障害研究室
河島 則天 先生



〈進化の過程における2足歩行〉




 移動運動から手を解放するためにヒトは2足歩行を獲得した。この進化は道具の使用などの目的をもって生じた現象であり、それにより脳などの中枢部が発達することで携帯電話をかけながら歩くなどのデュアルタスクな運動が可能となる。
 進化に伴う脳の変化は起きているが脳や脊髄の基本的な構造は変化していない。その中で動物の脳とヒトの脳には共通のシステムと固有のシステムが存在するため、動物実験で検討可能な部分とヒトを対象とした研究で検討していく部分に分かれる。




〈歩行の神経制御〉





 歩行の神経制御を考えていく中で、脳からの意図的な随意運動で行う部分と脊髄を中心とした
による自律的な反射活動の2つの側面から運動を捉える視点が重要である。歩行の自律性を生み出すパートとして脊髄CPGの関与が重要となるが、脊髄CPGが働くだけでヒトが歩けるわけではない。歩行運動の発現には大脳皮質、基底核、脳幹、小脳なども関与しており、随意制御と反射調節の相互作用によって始めてヒトの歩行は成立する。それぞれの作用を理解した上で、どの部分が阻害因子になっているのかを見極めていくことも歩行分析を行う上で重要な視点である。
 脊髄CPGとは、脊髄介在ニューロン群がなす歩行のリズム形成を行うネットワークの呼称であり、歩行運動の自律性を説明するための概念と捉えると分かりやすい。CPGの活動を惹起する刺激としては荷重情報と股関節からの神経入力が重要であり、歩行におけるリズム形成を獲得していくためには、それらを刺激するタスクをいかに課すかがポイントとなる。脊髄CPGによる自律的な神経出力が可能となることで、歩行運動発現に対する高位中枢の負担が軽減される。デュアルタスクを可能にしているこの脊髄CPGの機能によるところが大きく、リハビリテーションにおいてもCPGの活動を促し、リズム形成を獲得していくことが肝要となる。



〈歩行様筋活動〉



 脊髄損傷によって完全麻痺状態となっても、受動的ステッピング運動などにより適切な感覚入力を与えることで下肢筋群に歩行周期に同調したリズミカルな筋活動が発現する。この筋活動は、歩行様筋活動を呼ばれ、ヒトにおける脊髄CPGの活動特性を研究するための有用なツールとなる。




















〈歩行機能回復のための神経リハビリテーション〉






 部分免荷による歩行訓練を実施することで麻痺した機能の神経可塑性を促していくことで歩行能力の改善が見込める。そこにも荷重刺激と股関節がしっかりと伸展するようなアシストを行っていくことが必須であり、それによりCPGを刺激する必要がある。
 同じ程度の損傷を受けている片麻痺患者でもストラテジーの違いによってかなり歩容が異なる。具体的には安定性を求めるのか運動性を求めるのかで大きく違う。
 片麻痺患者の歩行では左右の非対称性が必ずと言ってよいほど大きくなる。リズム形成を行っていくためにはトレッドミルの使用やピッチ音に合わせるなどの外的要因からアプローチしていく必要がある。立脚時間や荷重量の左右非対称性を改善する1つの取り組みとして、曲線を歩くというタスクを行うことで左右非対称性が軽減してリズム形成につながる可能性がある。














〈講義を終えて〉

 研究内容が非常にわかりやすく、臨床上ですぐに応用できそうなものを研究の中から多く提示して頂き、難しい印象があった研究という分野と臨床との懸け橋となり得る講義でした。





樋口 貴広 先生 




『歩行の視覚運動制御』

首都大学東京
樋口 貴広 先生




〈歩行の周期性と適応的制御〉





 中枢神経系は、感覚情報に基づいて環境および身体の状態を知覚・認知し、適切な歩行パを選択するとともに、選択的に修飾を加えて歩行パターンを出力する。
 その適応的制御の中で3つの反応機構、予測機構、予期機構という基盤となるシステムがある。現状として、その中でも視覚による状況把握をして適切な動作を選択する予期機構における評価が臨床において欠けている印象がある。ただ、リズミックなパターン化された歩行のみを繰り返すのではなく、様々な環境下で身体内外の情報を適切にとらえ、目的や状況に即した視線行動を伴った歩行運動の制御を学習できるリハビリが必要である。



〈歩行の視覚運動制御と高齢者の転倒リスク〉







 転倒リスクの高い高齢者は、歩行中のバランスを維持することに精一杯となるケースが多い。その中で時間的・空間的負荷が高まることによって歩行の精度が顕著に低下する傾向にある。
 視線と下肢の動きの協調性・連動性に乱れが生じることが多く、間近な着地点に集中せざるを得ずに、先読みした歩行方略がとれないことでイレギュラーな事象に対応することができない。
























〈片麻痺患者の歩行における下方への視線〉




 片麻痺患者における歩行では頚部が前傾して下方に視線を置くことで、自らアライメントを崩して麻痺側下肢の振り出しを困難にしているケースが少なくない。
 研究結果より、確かに片麻痺患者の多く視線が下方を向いているケースが多いが、麻痺の程度が悪い人ほど視線が下方を向いているわけではなかった。この研究でわかったことは歩行速度と歩幅に応じて速度が速くて歩幅が広い人ほど視線が高く、遅くて歩幅が狭い人ほど低いということである。
 下方への視線の理由としては運動・感覚麻痺を代償するために麻痺側の視覚情報を利用している可能性がある。しかし、歩行能力と視線との因果関係がわからない。































〈講義を終えて〉



 セラピストとは異業種でありながら、実生活に即した形で研究をされており、セラピストからはなかなか出てこない考え方はとても新鮮なものでした。そのような考え方をお聞きして、臨床上で不足している観点が見えてくるように思います。セラピストとして気付かないけどクライアントのニードとなる事象ができる限り少なくなるように様々な視点を持つべきだと感じました。




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