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Report

「高齢者の転倒予防と最近の知見について」


研究者としてimputとoutputのバランスをキープする
 今回の講演は、熊本では5年ぶりとなる島田先生にお願いし研修会を開催しました。先生のお言葉で印象的であったのは、研究により科学的な根拠をもって活動すること、すなわち、imputとoutputをバランスよく行うことが重要。Imputとしての研究を発展させることはもちろん大切である。しかし研究ばかりでは、その成果を世の中に示すことはできない。outputと方法として論文にすることはもちろん、講演を行い、直に訴えることも非常に大切である。という言葉であった。
さらになぜ、島田先生はこんなに身を呈して研究に講演に打ち込まれるのかという話では、「少しでも多くの高齢者を、少しでもよりよい生活ができるようにする為にがんばりたい」という、真摯な言葉にも胸を打たれました。


エビデンスもアップデートされるべき
 午前中の講演は、転倒の原因を身体的要因・環境要因・活動要因の3つに分類し、より容易に改善できる要因から手をつけ改善することが、転倒を予防する第1歩となるということであった。さらに転倒予防を行う上での評価の流れとして、これまでに行ってきたスタンダードな評価も、見直す必要があると述べられました。多くの評価内容に関して研究結果を踏まえた上で話をされましたが、1例として、さまざまな論議がされているFR-testもこれまでの方法に加え、一定のところからどれだけ前方にリーチできるかを測定する方法が、再現性が高く、信頼できる方法として採用されていると述べられました。身体的要因を改善するためにも、より効果的なリスク改善を行うためにも、またエビデンスを構築するためにも、評価方法の見直し、改善が必要であると感じました。

また、認知機能に問題を呈しておられる方に関しては、これまでの方法では太刀打ちできないとのことであった。転倒と行動を分析しなければ、リスクを把握することはできず転倒予防にはつながらないと話されました。(この評価方法に関しては、2004年発刊の理学療法学に「痴呆高齢者の転倒予測を目的とした行動分析の有用性」と題して発表されています)





深刻な問題、そして大きな課題となる認知症高齢者の転倒予防
 運動介入のみの効果において、地域在住高齢者に対しては個別に行うことで効果を認めるが、施設入所高齢者に対しては効果を認めない。しかし多角的介入を行えば、認知症者以外には効果を認めることができる。但し、問題は認知症者への効果が得られないということである。認知症者は転倒するリスクが非常に高く、怪我をする可能性がありながら、介入方法が確立されていないのは大きな問題であり、課題であると話されました。転倒を予防する運動介入方法でも、運動内容を実際にどのように行うことが効果的であるかを述べられました。また、オーストラリアでの研究によると、転倒を予防する為には、筋力増強訓練や歩行訓練などの中でも、特にバランス能力の向上が必要であったことが、研究結果として示されていることを話されました。また、合計で50時間以上の運動が必要であるとも話されました。

認知症高齢者に積極的運動を!


午後は転倒予防の実際について具体的な方法を講演されました。機能改善の方法として、高齢期における歩行機能の低下予防が重要であることを示されました。さらに認知症を中心とした精神的虚弱の予防が、今後の課題であり、アプローチが必要不可欠であると話されました。スクリーニング検査をできるだけ多くの方に行い、早期発見に努めると同時に、画像診断による超早期診断についても触れられました。認知症を予防するためには、やはり運動を行う必要があり、効果の関連も示されました。その最新の知見の中でも運動介入前後の安静時糖代謝の賦活が、運動を行うことで認められるという研究結果は、興味深いものでした。



outputを通して島田裕之先生の想いを知る
 日本の理学療法士の研究者として先頭を走り、多くの功績を残されている先生自身が、とても速いスピードで進化されているのを感じられる研修会でありました。その裏には絶え間ない努力と苦労があるのではないでしょうか。講演の最後のお言葉にもあったとおり、身体面も環境面も能力を発揮できる理学療法士だからこそできる、つまり早速明日から実践に移し転倒を予防していく、という気持ちが強くつたわる研修会でした。

文責:米ヶ田宜久




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