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八木 茂典先生





「肩 機能解剖にもとづいた理学療法」

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 運動器外科学分野
  八木 茂典先生


~問題点を絞る!~






 これまでの八木先生の豊富なスポーツ分野でのご経験をもとに実際に問診から始まり、問題点を探る経緯など臨床に密接した内容から話は始まりました。
What(どうしたのか?)~多くの方は主訴として痛いから始まる。
When(いつから?)~昨日から?半年前から?
Why(きっかけは?)~スポーツの種類、ポジションや投げ方はどうなのか?
どこが(圧痛等)?~上部、前側、外側、後側? Palm sign, finger sign
How(どうすると?)~どの場面(フェーズ)で痛みがあるのか?
問診だけでこれだけの情報が得られ、触れる前に問題点が絞れてくる。その為には日常動作も含めた動作の中で肩関節や肩関節周囲にかかる負担を理解しておく必要があり、それだけで7~8割の問題点が絞れてきます。問診の重要性が良く理解できます。その後、視診、ROM、筋力、各種テストを用いて更に問題点を絞って明らかにすることによって的確な治療と短期間での効果が期待できる。




~肩甲骨のスタートポジションを知ろう!~






 肩甲骨を見るポイントを知ることで、正常な肩甲骨の位置が分かり、痛みがある場合にその関係性を探る上で非常に大切になる。下垂位ポジションのポイントとなる個所は、まず肩甲骨上角と下角の位置は第2~7肋骨の高さにある。次に棘三角と肩峰後角はほぼ同じ高さにあり、その二つを結んだ線と上腕骨が90°の角度にある。これは一般的にイメージするよりも実際には少し下方回旋位置にあるということです。さらに肩甲骨と上腕骨の位置関係を理解しておくと実際の肩甲上腕関節の可動域の関係も3次元的なイメージがしやすくなります。








~靭帯の秘密~






 肩関節には関節包、靭帯が存在しますが、お話の中の一部に関節包靭帯のお話がありました。
関節包靭帯には上関節上腕靭帯、中関節上腕靭帯、下関節上腕靭帯があり、これらは関節包を補強しているものですが、実は他の靭帯とは違った性質である。それは伸張性の無い靭帯というものです。いったいこの靭帯は何かと言うと、関節包のしわ(遊び)であり、上腕下垂位の時に現れる靭帯なのです。その他に、烏口上腕靭帯に関して、この靭帯は浅層の小胸筋腱がそのまま烏口上腕靭帯として役割を果たしているということです。例えば、五十肩の人に外旋制限があれば、小胸筋にアプローチすることで外旋制限に効果的な治療効果が期待できます。

棘上筋と棘下筋
 棘上筋と棘下筋の大結節への腱付着部を見ると、今まで教科書で習ってきたものとは違う答えが見えてきました。勿論教科書は間違ってはいないのでしょうが、この講義のなかで、更に厳密なものが分かりました。それによりこの二つの筋肉の作用が明確になり、MMTやインピンジテストに大きな意味が生まれます。勿論訓練方法にもそれは同じことが言えるでしょう。















~講義を終えて


 八木先生の講義の中で『現在自分が行っていることは、何をしようとしているのか?それによって何が見えるのか?見ようとしなければ見えない。そのやり方で適切なのか?それらを再度考えてみよう!』とありましたが、まさに治療者であるセラピストがもう一度原点に返って考えなくてならない言葉だと感じました。

文責 米田 興希



宮本 梓 先生



「理学療法と肩関節~病態から臨床、研究まで~」



慶友整形外科病院 リハビリテーション科  
宮本 梓先生



~臼蓋上腕靭帯の役割~




 臼蓋上腕靭帯には上臼蓋上腕靭帯、中臼蓋上腕靭帯、下臼蓋上腕靭帯がありますが、それぞれの役割を解説して頂きました。まず上臼蓋上腕靭帯の重要な役割として、腱板疎部の補強ということでした。中臼蓋上腕靭帯は内旋位では弛緩しますが、外旋位に行けばいくほど緊張して関節の安定化に関わってきます。下臼蓋上腕靭帯は、前方は外転・外旋90°位置で緊張してきて、関節前方の安定化に関わってきます。また後方の靭帯が拘縮を起こすことで上腕骨頭が後方に引き寄せられて、挙上位(外転・外旋)には後上方へ移動してくるメカニズムを解説して頂きました。



~肩峰下滑液包は意外と大きい!~

 肩峰下滑液包の上面の遠位は三角筋筋膜に付着し、近位は肩鎖関節下面・肩峰下面・烏口肩峰靭帯に付着しています。底面の遠位は大結節、近位は棘上筋と棘下筋の表面と癒合して一つの大きな滑液包となっています。また教科書や参考書にはあまり載っていない棘上筋と肩峰下滑液包の関係もお話して頂きました。私たちセラピストがこれらを理解することで患者さんの痛みに対して適切な評価を行い、その後の適切な治療に生かされてくるのではないでしょうか。






















~局所の病態把握~

 病態を把握するには、圧痛、徒手テスト、更に再現性の有無を確認していきます。疼痛の再現性には①部位②深さ③質④種類を事細かに探り、再現性の有無を確認していきます。
徒手テストを正確に理解するためには感度と特異度をしっかり知っておく必要があり、知った上で判断していかなければ正確な把握は出来ない。そしてこの後宮本先生が普段臨床でどのようにされているのか病態把握の実際を見せて頂きました。




















~肩甲骨の位置は何に規定されるの?~




 一般的な肩甲骨の評価法として坐位での評価があり、肩甲骨の位置は周囲筋のバランスにより規定されるとされている。しかし、これは本当なのであろうか?
「肩甲骨の位置は坐圧が規定する」という仮説をもとに研究を行ったところ、骨盤帯・体幹に左右差が生じることにより坐圧中心が変化し、肩甲骨の位置も変化するという結果が得られた。この結果から肩甲骨の動きを評価し、更に肩甲骨周囲筋のバランスのみでなく、体幹と骨盤帯のバランスが肩甲骨の評価に重要であることが言える。また術後などで固定期の患者さんに対して肩甲骨周囲の筋スパズムがある場合などは、体幹など身体運動(体幹回旋)の連鎖を利用して肩甲骨の動きをチェックしてスパズムが起こりにくい状態にできると言う事でした。















「講義を終えて」



 宮本先生ご本人が実施された研究や実際の臨床をもとに、様々な知見を踏まえ講義を行っていただき、教科書に記載されている一般論だけでなく、新たな視点から棘上筋の機能や肩甲骨の評価法、更には実際の臨床場面での手順などを学ぶことができました。
 今まで、棘上筋の作用や肩甲骨の評価について教科書的な知識しか持ち合わせておらず、肩関節疾患患者の治療において基本的なアプローチしか行えていなかったものが、今回の講義で得られた知識により、全く異なった視点から評価を行うことができ、より良い効果が期待できる治療を行っていけるのではないでしょうか。
さらに、宮本先生が臨床現場で実際に行われている、病態把握の実際、小円筋や肩甲下筋への具体的なアプローチ方などを教えていただき、今回参加された先生方にも興味を持てるような内容であったように感じます。

文責 米田 興希





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